「行政書士にビザを頼んだら、全部やってくれるんでしょう?」
よく聞かれます。
できることはかなり多い。でも、何でもできるわけではない。
これが答えです。
そもそも「申請取次行政書士」という名称からして、少し誤解を招きます。「取次」というと、書類を預かって入管へ運ぶ人。そんな印象を持たれるかもしれません。
制度上の申請等取次は、本人出頭を原則とする在留関係手続について、一定の者が外国人本人等に代わって申請書、資料等を提出する仕組みです。
しかし、実際の行政書士業務は、書類を提出するところから始まるのではなく、その前が本番です。
申請取次行政書士ができること
1 申請書類を作る
在留資格認定証明書交付申請、在留資格変更、在留期間更新、永住、資格外活動など、依頼内容に応じて官公署へ提出する申請書類を作成します。
行政書士は、官公署に提出する書類の作成等を業務とする国家資格者です。なお、行政書士として書類を作成することと、本人に代わって申請等を取り次ぐことは別です。行政書士が申請等取次を行うには、地方出入国在留管理局長等への届出が必要です。
2 案件を整理する
実務では、ここがかなり重要です。
例えば「技人国を取りたい」と言われても、そのまま申請書を書き始めるわけではありません。
本人の学歴、職歴、会社の事業内容、実際の仕事内容、給与、勤務場所、組織体制、過去の在留歴。それらを見ながら、そもそも、その在留資格に該当するのかを考えます。
経営・管理なら、会社を作っただけでは足りません。事業実態、資金、事務所、人員、取引先、収支見込み、そして本人が本当に経営を行うのか。資料を集める前に、案件そのものを整理する必要があります。
3 弱点を見つける
行政書士の仕事で一番大切なのは、もしかすると、申請書を書くことより、問題点を先に見つけることかもしれません。
「この経歴と仕事内容はつながっているか」
「この売上で本当に事業を継続できるのか」
「前回申請と今回の説明に矛盾はないか」
「この人が会社を経営しているという説明で本当に通るか」
「なぜこの資料が存在しないのか」
入管から指摘されてから考えるより、申請前に考えた方が当然いい。
4 理由書や説明書を作る
ただし、理由書を書けば何でも解決するわけではありません。
理由書というのは、存在しない事実を作る魔法の紙ではありません。
ある事実を、どう整理して、どの資料と結び付けて、どう説明するか。そのためのものです。
事実が悪いのに、文章だけ上手く書けば許可になる。そんなものではありません。
5 本人に代わって申請を取り次ぐ
届出済みの申請取次行政書士であれば、制度上認められる範囲で、外国人本人等に代わって申請書、資料及び書類の提出等を行うことができます。これによって、一定の場合には本人の入管への出頭負担を減らすことができます。
オンライン申請にも対応できます。
ちなみにオンライン申請になると、もはや「行政書士は書類を入管まで運ぶだけ」という最後の仕事まで消えてしまいます。
運んですらいません。
それでも報酬をいただいています。なぜか。
前回の雑感にも書きましたが、提出ボタンを押すまでが仕事なのではなく、何を提出するか決めるまでが仕事だからです。
逆に、申請取次行政書士にできないこと
1 許可を約束すること
行政書士は許可を出せません。許可・不許可を判断するのは入管です。
したがって、「100%取れます」「絶対大丈夫です」とは、本来言えません。
経験上、「かなり可能性が高い」「この部分が危ない」「現状では申請を勧めない」という判断はできます。しかし、最後に許可を出すのは私たちではありません。
2 存在しない事実を作ること
存在しない取引を作る。働いていない会社で働いていたことにする。実際には行っていない業務を行っていることにする。形式だけの雇用契約を作る。架空の事業計画を作る。
これは「行政書士の腕」ではありません。単なる虚偽です。
3 本人に代わって嘘をつくこと
依頼者から「ここはうまく書いてください」と言われることがあります。
「うまく書く」の意味が、分かりやすく整理して書く、なら問題ありません。
しかし、「実際とは違うけれど、通りやすいように書いて」なら話は別です。
行政書士は、事実を整理することはできても、事実を作ることはできません。
4 違法就労を合法に変えること
すでに在留資格外の活動を行っている。実態は単純労働なのに、技人国として働かせたい。実際には派遣できない形なのに、別会社で働かせたい。
こうしたものを、契約書の名前だけ変えて合法化することはできません。
業務委託契約と書けば業務委託になるわけではありません。肩書きを「通訳」にすれば通訳業務になるわけでもありません。
入管業務では、契約書のタイトルより実態を見なければなりません。
5 他士業の独占業務まで全部やること
行政書士だから、会社登記も、税務申告も、訴訟も、労働社会保険手続も全部できる、というわけではありません。
他の法律で業務が制限されているものについては、行政書士が行うことはできません。必要であれば、司法書士、税理士、社会保険労務士、弁護士など、それぞれの専門家につなぐことになります。
なぜ入管業務では「逮捕」の話を聞くのか
ここは少し怖い話です。
ときどき、行政書士が入管関係の事件で逮捕された、というニュースが出ます。
ただし、「行政書士は他の職業より逮捕者が多い」と断定できる公的統計があるわけではありません。
一方で、入管業務には、事件化しやすい要素があるのも事実だと思います。
理由は単純です。この仕事は、外国人の在留資格、雇用、会社、お金、そして官公署への申請、全部がつながっているからです。
「この人をどうしても日本に呼びたい」
「どうしてもビザを取らせたい」
「この人をこの会社で働かせたい」
そこで、本来通らない案件を無理に通そうとすると、だんだん境界線を越えていくことがあります。
最初は「少し説明を工夫してほしい」。次に「この部分は書かなくていいでしょう」。さらに「この契約書を作ればいいでしょう」。最後には、事実そのものを作り始める。
ここまで来ると、もはや書類作成業務ではありません。
「書類を作っただけ」では済まない
入管申請は、官公署に提出する書類です。
そこに虚偽の内容を入れたり、偽装就労や不法就労に関与したり、虚偽の在留活動を前提として申請を組み立てたりすれば、事案によっては行政書士本人も刑事事件に巻き込まれる可能性があります。
入管法違反自体も現実に多数摘発されています。出入国在留管理庁によれば、令和6年中に入管法違反により退去強制手続等を受けた外国人は1万8,908人で、そのうち不法就労事実が認められた者は1万4,453人でした。
つまり、入管業務というのは、最初から違法行為をしようという人だけを相手にする世界ではありません。
普通の相談の延長線上に、「ここを少し変えれば通るんじゃない?」という誘惑があります。
そこを越えないことが大切です。
「取れる行政書士」と「何でもやる行政書士」は違う
お客様からすると、「何とかしてくれる先生」のほうが頼もしく見えます。
しかし、何でも「できます」「大丈夫です」「何とかします」と言う行政書士が、本当に良い行政書士かというと、私はそうは思いません。
「それはできません」
「その形では申請できません」
「まずこの問題を直してから申請しましょう」
そう言えることの方が大事です。
ビザを取ることが仕事だからこそ、取るためなら何をしてもいい、とはなりません。
申請取次行政書士は、入管と依頼者の間に立つ専門家です。依頼者の利益を考える。同時に、制度の線も守る。この二つを両立させなければなりません。
申請取次は「運ぶ権限」ではある。でも仕事はそこではない
制度だけ見れば、申請取次とは、本人に代わって申請書類を提出する仕組みです。
かなり地味です。本当に、「取次」です。
しかし、実務では、その前に何十個も判断があります。
何を申請するのか。
今申請していいのか。
何が弱いのか。
どこまで説明するのか。
どの資料を出すのか。
何を出さないのか。
そもそも、この申請をしていいのか。
そこまで考える。
申請取次行政書士にできることと、できないこと。その境界線を理解していること自体が、入管実務では一つの専門性だと思っています。
参考(公的情報)
出入国在留管理庁「申請等取次制度の概要」/日本行政書士会連合会「行政書士の業務」/出入国在留管理庁「令和6年における入管法違反事件について」
