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三王行政書士法人
三王行政書士法人SANNO GYOSEISHOSHI CORPORATION
入管雑感

入管業務のトリレンマ
――顧客満足・行政書士業の成功・入管法令遵守

入管業務に長く携わっていると、しばしば三つの要求が同時に目の前に現れます。

一つ目は、お客様に満足していただくこと。

二つ目は、行政書士として事業を成功させること。要は、自分自身が満足すること。

そして三つ目は、入管法令を遵守し、出入国在留管理庁および各地方出入国在留管理局(以下「入管」といいます。)の審査に耐え得る申請を行うこと。要は、入管に満足していただくこと。

この三つがすべて両立するのが理想です。現に、多くの行政書士の先生方は、お客様の希望に応え、適正な報酬を得ながら、入管法令に適合した申請を行っておられます。

しかし、実際の入管業務では、この三つが常に同じ方向を向くとは限りません。

「顧客満足」

「行政書士としての事業上の成功」

「入管法令・審査実務への適合」

この三つを同時に最大限満たそうとすると、ときに互いに衝突します。

これを、私は「入管業務のトリレンマ」と呼んでいます。「トリレンマ」とは、三つの重要な目標や条件をすべて同時に最大限実現しようとすると、互いに衝突して両立が難しくなる状態を指します。

顧客満足・行政書士業の成功・入管法令遵守の三者関係を示す『入管業務のトリレンマ』図
「顧客満足」「行政書士業の成功」「入管法令遵守」の三者が引っ張り合う構造

1.顧客が求めているもの

行政書士に相談に来られる方の多くは、入管法そのものを詳しく研究しているわけではありません。

開口一番、

「家族ぐるみで日本に移民したいんです。どうすればビザが取れますか」

と切り出されることも珍しくありません。こちらは思わず絶句します。

お客様の生々しい希望を、入管法という法律に基づく申請へとどう落とし込むか。それは、行政書士の腕次第です。

例えば、

「日本で会社を経営したいので、経営・管理を取りたい」

「外国人を採用したいので、就労できる在留資格を取りたい」

「住宅ローンを組みたいので、永住を取りたい」

「すでに日本にいるので、このまま在留資格を変更したい」

といった相談があります。

どれも、もっともな話です。すでに日本で事業に多額の資金を投じている人もいます。採用予定者の在留資格が取れなければ、会社の事業計画そのものに影響することもあります。

家族が日本と海外に分かれて生活していることもあります。その人にとって在留資格は、単なる「行政手続」ではありません。仕事、会社、家族、住居、教育、将来設計など、生活そのものに直結し、人々の生き方を左右するものです。

そのため、たとえ、各在留資格の要件を満たさなくても、

「何とかしてほしい」

という切実な要求が生じます。

顧客満足という観点だけで見れば、その場の空気に合わせて、

「できます」

「すぐ申請できます」

「大丈夫です」

と即答するほうが歓迎される場合もあるでしょう。

しかし、入管業務は、行政書士と依頼者の二者だけで完結するものではありません。もう一つ、別の当事者がいます。

入管です。

2.入管は顧客満足を審査しているわけではない

入管は、申請人がどれほど強く在留資格を望んでいるかによって、許否を判断するわけではありません。

また、案件を担当した行政書士事務所が利益を得られるかどうかも、当然ながら審査とは関係ありません。

例えば申請人が、

「すでに会社に多額の資金を使いました」

「許可が下りなければ事業に大きな影響があります」

と説明したとしても、それだけで在留資格の要件を満たすわけではありません。

入管が見るのは、申請する在留資格に該当する活動があるか。必要な基準を満たしているか。提出された説明と証拠に整合性があるか。といった、申請の内容そのものです。

ここに、民間サービスとの大きな違いがあります。入管の職員は公務員であり、法令に基づいて、提出された資料を粛々と審査するだけです。

通常の商取引であれば、顧客の要望に合わせてサービス内容を変更することができます。

しかし入管申請では、顧客が希望する結果に合わせて、過去の事実そのものを変更することはできません。

まして、行政書士であるあなたが食べていけるかどうかなど、入管は一顧だにしません。

3.行政書士もまた事業者である

一方、行政書士事務所(法人を含む)も事業者です。

従業員の給与があります。事務所の家賃があります。広告費、システム費、社会保険料、通信費など、さまざまな経費もかかります。

当然ながら、売上と利益がなければ事業を継続できません。入管業務を専門に扱う以上、案件を受任し続けなければ、そもそも業務として成立しません。

難しい案件ほど、事実関係の確認、資料収集、理由書作成、追加説明、依頼者との打合せなどに多くの時間を要します。その分、報酬も高額になる傾向があります。

ここで別の力が働きます。

「できれば受任したい報酬をもらいたい」

という事業者としての動機です。

さらに顧客から、

「他の行政書士はできると言いました」

「別の事務所では受けてもらえます」

と言われれば、同業者に先を越されるのではないかという焦りも加わり、判断はさらに難しくなります。

かといって、微妙な案件をすべて断っていては、入管業務専門だけの事業を成り立たせることもできなくなります。(何本立ての専門業務がある事業者は別として)

つまり、行政書士には行政書士側の事情もある。この点も入管実務を考えるうえで無視できない事実です。

では、顧客満足を最優先すべきなのか。行政書士としての事業上の成功を優先すべきなのか。それとも、入管法令・審査実務への適合を何よりも重んじるべきなのか。

ここでは、その結論を出しません。

ただ一つ言えるのは、入管業務には、「顧客満足」「行政書士としての事業」「入管法令・審査実務」という三つの異なる力が同時に存在しているということです。

そして、案件が難しくなればなるほど、その三つが同じ方向を向かなくなる場面が出てきます。

どこを重視するのか。どこまで受任するのか。どこまでリスクを取るのか。

何を取って、何を捨てるのか。

その判断は、行政書士によっても、依頼者によっても、案件によっても、異なるでしょう。

これが、入管業務の現場に厳然として存在する、一つの「トリレンマ」です。

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